実りを問うな

育児、本、漫画、絵の日々備忘録

同人誌「東京物語」制作過程メモ

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書き出したら長くなってしまったので

ここに記録します。
2021.7.11に配布した
はじめての同人誌について

1)きっかけはみなさんがオガタやツキシマがみてるであろう映画をあげてるのを見たことです。知ってる映画は「わかる!」知らない映画は「みてみたい!」となりました。子供を産んでからは劇場から足が遠退いていましたが、みなさんの投稿をみてあの映画みてみようかなとワクワクしたのを覚えています。

2)尾月に置き換えると、ふたりで見て欲しいのはなんだろうと考える様に。映画って他のことを遮断して目の前のスクリーンに上映中集中できるようにできていますから、見る前と見た後と二人の感情が変わっていたり、見た後の語らいで距離が縮まったり、解釈で喧嘩なんかしても面白いんだろうなと

3)ひとりでみるのが一番集中できますし、私も基本的にみにいくときは一人が多いですが、何かしら物語を共有すること、そこで生まれる交流で人間関係が動くというのはよくあることではないでしょうか。人間だけに許された遊びなのかもしれない。


4)こどもと絵本をみたりするのもそうです。音や言葉と視覚でみたものを共有する。いわゆるオタク的な物語の楽しみ方もそうなんじゃないでしょうか。金カムというスクリーンを共有しているわけです。 だからみんなこの一瞬を一緒に生きてるんですね?毎週ハラハラしながら。楽しいね!!?


5)尾月の方の、映画をみる二次創作たくさんみたいな!と呟いたところ、たくさんリツイされていたので、みんなみたいのかな~と尾月と映画のタク企画を呼びかけました。みなさんの好きな映画と尾月がみたいという思いからでしたが、あまり追えておらず申し訳ない…


6)なかなか自分のものを書き出すと限られた自由時間では作業を進めることに集中してしまいます。 自分が見せるなら…となったときに、ふと思い出したのが「東京物語」です。アマプラにあったので若い時以来久しぶりにみたのですが、若い時とは印象がガラリとかわりました。


7)役割を終えた家族がゆっくり崩れていく様を描いた映画だと思っていましたが、違う。これはそんなものだけじゃないんだと。死も、その時代も、人生も、個人も家族も、全部語っているすごい映画なんだと改めて感動しました。


8)紀子が義理の両親に向ける親切もいろんな想いがあるし、若い頃は、なんて不親切だと京子のように思っていた長女の志げや長男の幸一の気持ちも、今では痛いほどわかる。 いろんなものを置き去りにして人生が過ぎていく様を、すごく丁寧に、言い過ぎず、凛と静かに語りかけてくれる傑作です。


9)東京物語を観たあとに、ふと思い出したのが某局のドラマ。後書きをご覧になった方はお分かりになるかと思いますが、柄本佑さん主演のドラマ「心の傷を/癒すということ」大変素晴らしいドラマでした。音楽もジャズが散りばめられていて、ネームを切っているときはずっとサントラを聴いていました。


10) 主人公の安先生と妻終子さんが出会うきっかけが東京物語。二人の出会いの会話がものすごく素敵なのでぜひドラマをみてみてください。漫画ではセリフを聞き逃し、もう一度劇場にくるというくだりを使わせていただきました。聞き逃したセリフやその後の展開はまったく違うので、ぜひドラマをみてほしい。安先生と終子さんがお互い引かれていく様子が美しく描かれています。


11)同じ頃、劇場で西川美和監督「すばらしき世界」の作品が公開されました。役所広司さん主演。西川美和監督、橋口亮輔監督、呉美保監督など、好きな監督の映画はなるべく映画館でみたいのですが、二児を抱えているとそうもいかず。
ですがどうやら今回の「すばらしき世界」は見れそう!会社を休んでみてきました。


12)作中の主人公三上をみて、ツキシマの父も、全方向にクズというより、人間ですから遠からず不器用でそうなってしまったところがあるんじゃないかと思った時、オガタとツキシマ父で東京物語させよう!!と名作にのっかることに決めました(笑)


13)簡単にプロットを書いてマジコさんに読んでもらったのですが、尾月っていうよりオガタとツキシマ父が強いかもねと言われて、確かにそうだなと冷静になりました。結局のところ不器用な人間が好きで、そういう人を描きたいと思っていたんですね。


14)描いて楽しそうなところだけで本出そうかなとも思ったのですが、せっかくだし、時間はないけどちゃんとある程度のページ数描こうとプロットを組み直し、きちんと尾月を主役に定めて、ふたりのストーリーが最後にゆっくり集結するものに書き直しました。ネームで60ページを超えました。


15)でも長い漫画を描いたことがありません。前回、初めて20ページくらいのいごちゃんとツキシマの漫画を軍曹会議で描いて、2作目で長編とか無謀なのですが、ちゃんと描けば形になりそうだと思っていたので、挑戦してみようと描き始めました。


16)クリスタが苦手で、いごちゃん漫画のときは途中で挫折。プロクリエイトとイラレで作業するという残念っぷりだったので、マジコさんがつないでくださり、はるこ。さんのご好意に甘えてお時間をいただきクリスタを少し勉強させていただきました。おかげで枠線の書き方とかも覚えてすごくスムーズに作業できました。本当にありがとうございます。


17)参考小説は「すばらしき世界」の原作、佐々木隆三さんの「身分帳」を読んだのと、今村昌平監督の映画「うなぎ」の原作である吉村昭さんの小説「闇にひらめく」(短編集 『海馬』に収録)と同じく吉村昭さんの「仮釈放」をざっと読み返しましたが、あまりそこまでツキシマ父の描写ができずそれが心残りです。


18)あげた小説や「すばらしき世界」では、きちんと人殺しや犯罪に走った人間の身勝手さも表現されているので、興味がありましたらぜひみてみてください。吉村昭さんは何読んでもいいですけど、私も全部まだ読めていませんけど、本当何読んでも面白い。(2回言う)


19)ツキシマ父をちゃんと描こうとすると本当にページが増えるのでできるだけ尾月に集中させつつ、ツキシマ父の様子がわかるように、ツキシマと地元の世話好きのおばさんの会話を差込み経過を語らせました。


20)しかしこれも、ひとつ言いたかったことのかもしれません。「すばらしき世界」でもいろんな「他人の小さなお節介」がでてくる。現実世界でも、同じ時間に徘徊している老人のことや、ひとりで帰宅している子供のことはみんなで見守っているようなところがあります。
それが至らず、悲しいことになってしまうこともありますが。


21)あとは、なにか「良きもの」を入れたかった。いご月漫画ではカモメでした。
私たち人間とは違う、預かりしれない何か美しいものです。人と人の間で救われ、人と人の間で擦り減って疲弊して傷つく。でも美しいものも、いつもそこにあるのだと、そういうものを美しいと思っていたい、と何かひとつ入れる様にしているのですが、今回は蓮にしました。


22)蓮はご存知の通り仏像の台座にも使われ、仏教的にも大きな意味があります。今回さらっとさせて宗教じみた感じにならないように気をつけたつもりです。私も不可知論者でありたいし、空飛ぶスパゲッティモンスター教(わからない方はググってね!)好きなんですが、こういうスパイスも救いとしては良いんじゃないかな?と入れました。


23)白黒になってしまいますが、あの見開きのページは、絶対綺麗に描きたいなと思っていたので蓮の色をピンク想定でもっと濃くしたり、白くしたりを、もくりでiskさんやマジコさんにみてもらいながらできるだけがんばりました。


24)でも、やっぱりカラーも描きたいな…と裏表紙に入れました。
馬刺しさんに寛永寺不忍池の写真を撮ってもらっていたのですが、蓮はまだ咲いてない時期なので、福岡の蓮の名所、大濠公園の写真を資料にしました。(仕事でたまたま資料を沢山持っていました。大濠公園の蓮は白なので、鮮やかになるようにピンクにしています)本当にありがとうございます。


25)さらに三食さんにもご協力いただけるということになり、オガタとツキシマ父のすわるベンチ周りを中心に寛永寺の付近の写真を撮ってきていただきました。お二人には本当に感謝しています。おふたりの写真資料のおかげで説得力が出てくれた気がします。


26)最後の尾月シーン、うまく体がかけなくて、マジコさんに男性二人がそうなってるシーンがありそうな映画をめちゃくちゃ教えてもらいました。早送りでみたりしたけど、引きのアングルがなかったので、スポーツ選手の抱擁シーンの写真をみて描きました(笑)あと映画グリーンブックのふたりの最後の抱擁が大好きなのでそれも参考にさせてもらいました。


27)こう動いてこういう風にしてほしいってイメージはあるのに、キャラクターが思う様に演技してくれないからこまったもんですな!(画力!!)
小さな女の子や動物みたいなもんしか描いてきてないので、もっと上手になりたいですね。


28)オガタがツキシマに初めて甘えるシーン。ちょうど描いているとき煮物さんともくりしてて、難しいとぼやいたら「3Dモデルご存知ですか?作りますよ」「ミノジさんのオガタは身長何センチくらいですか?」(この質問なんか好きw)と作ってくださって…。本当、あれがなかったらなんかよくわかんない絵になってました。煮物さんありがとう!😭


29)ツキシマ父の最後の手紙のシーンですが、ずっとイメージしていたのは、私のフォロア様なら何度かご紹介してるのでご存知かと思いますが、コニー・ウィリスの小説「航路」のあるシーンです。本当にあの小説が好きです。構成もすべてあんな完璧な小説ないです。頭良すぎる。なのにエンタメSFなんです。大好き。


30)最後のシーンの夫婦岩とかあの辺は、いご月漫画で描いたやつを使いまわしてます。
あと海の絵も、表紙の絵を白黒にして背景に何箇所かつかっています。アニメーション方式ですね!!一枚ちゃんと描いて背景につかいまくる。これはいい。今後も活用します(笑)


31)オガタのばあちゃんですが、原作で毒を飲んだトメに吐かせようとしている描写があるので、ふつうのおばあちゃんだったんじゃないかと思ってあんな感じになりました。娘のこと大切だったのと思います。普通のお婆さんが、救ってやれなかった娘の代わりに孫を育ててたらどう思うかなとあのセリフを言わせました。もっと娘と向き合っていればという後悔もあるだろうし、それをみていた孫とどう対話していいのか、迷いがあったのかもしれません。こうじろう~~~(怒)w


32)全編を通してなるべく横に並ぶようにふたりを配置しています。初めから意図してなかったのですが、描き始めてから、これは同じ風景をみるふたりの物語なんだと自分で再確認し、向き合ったりは最小限、目も合わさず隣で寄り添うように描いています。
感想で意図していたことを指摘されている方がいて「やった~!!気づいてくれた!」と喜んでます。


結局はふたりに、
普通に、人間活動してほしいな。
現代で、どうにか痛みとも共存しながら生きてる二人を描いてみたいなと思っていて、
それが描けているような気がして良かったかなと思います。

現時点で真面目に考えて一生懸命描きました。
だから後悔はあるようでないので、
これを糧にまた次のお話しと時間まで向き合いたいです。


フリートに表紙と裏表紙の作成経過をのせていました。みていただいていた方はご存知だと思いますが、色も、海の様子も全然違いました。
最初は冷たい、荒れた海でした。
だんだん、あのような朝日の色味になっていき、波も穏やかになりました。フリートみてくださってありがとうございました。

12月はこの二人がどうにか友愛から恋愛というか性愛に踏み出すお話をかければいいなと
思っているのでぼんやりプロットを立てています。書き出すのは9月からとスケジュールにかいてみましたがどうなることやら。月島が異性愛者である前提があるので、そこらへんをどう表現するか、自分なりに真摯に考えてお話しをつくれればなと思います。

おわり。

 

12.10追記

1番のイメソンはsia の「saved my life」という曲です。ネームきってるとき聴いて、あ、これだって思いました。

ラストのoceansもラストのイメージって感じです。

描きながら奮い立たせてたイメソンラインナップ↓

本当は無音が1番集中できるんですけどね。

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